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アウトローへの境界線は、案外、身近な人と接することで守られます。
kayuma 投稿 - 2020/07/27 更新 - 2020/07/28 0 Comments 204 Views
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 僕はおかんから聞いた受売り話を明男にすると
明男は 目を輝かせた。
「昔、伝説の大親分といわれていた井岡組長は、不倫の子で
地方出身なんだ。母親は五歳のときに亡くなり、それからは
大阪の親戚に預けられたんだけど、そこでは学校も行かして
もらえず、港湾の土方仕事ばかりさせられていた。
 その近くの喫茶店で知り合ったのが、なんと十四歳だった由美子夫人。
 由美子夫人も、親の愛を知らずに育ち、井岡組長と由美子夫人は
恋におちて一緒になったという」
 井岡組長率いる本山組は、最初は十人足らずの弱小な組だったが
井岡組長は、前科者など親戚すらも相手にされない
行き場のない人ばかり引き取って 一万人以上の膨大な組に
仕立て上げたんだ」
 だから、井岡組長は、親がいて、帰るべき自宅があり、
学校に行って勉強するチャンスのある若者が非行に走るなんて
考えられない。
 ましてや、派手な革ジャンと大きなバイクの暴走族など
まったく理解不能だったという」
 明男は、興味津々に耳を傾けていた。
「でも、アウトローってもう流行らないんじゃないの?」
 僕はこれまた、テレビの受売りで答えた。
「確かにな。もう今は、銀行口座さえつくれないし、不動産も車も
借りることさえできなし、貸した方は罪に問われる。
 市営住宅でもアウトローとわかった途端に、強制退去だしな。
 商売上でも、アウトローとつきあいがあると言った時点で
営業停止。たとえ、冗談でも酔っ払って言ったとしても」
 明男は、頷きながら
「やはり、悪の華は咲いた試しがないな」
 僕は、明男のその言葉に共感した。
 しかし、その明男がまさか、半グレまがいのことを
仕出かすとは、予想もつかないことだった。

「なあ明男。余計なことかもしれないが、おかんは
今 どうしてるの?」
 僕の親の経営するこのレトロ喫茶に、一度だけ
明男と一緒の訪れたことのある 少々派手な明男のおかん
「わあ、この店の珈琲、香り高くて美味しいわ。
こんな美味しい珈琲飲めるなんて 幸せ!」
 やはり明男が可愛いのだろうか。
 明男のおかんは、ピンクの目立つストールを
手にあて、目を細めた。
 そういえば明男も、嬉しい時は、目を細める癖がある。
 正直者なんだな。でも、その正直さが仇にならねばいいがと
僕はちょっぴり、気が憂えた。


 
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