車道に触れたタイヤが焼ける
近付く夏の凄惨な匂い
魂のような蜃気楼が
自転車の帰路を煽る
これから何処へ向かおうか
まだ見ぬ自分の未来の方さ
玄関のドアはねばついて
ずっと前から僕を嫌っている
環境が行く末を示すなら
せめて想像しない方が良い
まだ聞こえない蝉の声を
身体中に浴びて笑えるなら
そんな人間になりたい
だから一刻も早く
あなたを忘れて生きたい
ねえパパ 泥塗れの畳の上で
桜の散り際を看取ったよ
美しくて 恐ろしくて
あなた以外を思ったよ なのに
ねえパパ 部屋の中はぐちゃぐちゃだ
捻って潰したビールの缶も
汚れた服 写真の切れ端
あなたの愛が蔓延っているよ
テーブルの上で
立っているのは灰皿だけ
他は全部死んでいる
全部死んでいるのさ
もう聞こえない蝉の声が
酒臭い部屋に反響する
へこんだ壁にハエが止まる
増えてしまう どうして
僕は僕であれない
ねえパパ 泥塗れの畳の上で
桜の散り際を看取ったよ
美しくて 恐ろしくて
あなた以外を思ったよ なのに
ねえパパ 部屋の中はぐちゃぐちゃだ
捻って潰したビールの缶も
汚れた服 写真の切れ端
あなたの愛が蔓延っているよ
1 Comments
2019/05/20
生々しい描写がさらに際立ち
全体に香る哀しみのようなものが
こちらにビンビンと伝わってきます。
個人的には、<桜の散り際を看取ったよ>という部分が大好きです。
こういう詞が書ければな、と思えました。