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翻した秒針 月をも見えぬ曇天
軋んだ機体に身を預け 最終列車は走る
気遣う人影居なければ 大胆に席を倒す
独りきりの空想に耽り 来るべき時を待ち侘びて
されど駅は遠く 隧道の腹の中へ
明滅する人工光に 憂鬱が見え隠れ
停滞する秒針 色をも変えぬ眺望
瞼を閉じても開いても 脳裏に過ぎるは悪夢
温度を失くした幸も 手に余る不幸さえも
詰め込んだ鞄は歩廊に置き 履歴を白くしたはずだった
未だに朝は遠く 隧道に響く喧噪
痙攣が止まらずに 全てが闇に見える
出口は何処にある 終点はいつに着く
誰にさえ責められない この列車は一人乗りだ
もう一度朝に逢いたい 雄大な美景と共に
選ぶ駅に間違いはない その証を刻めるなら
孤独を捨てていいか 傷を認めていいか
汽笛は鳴らずとも 隧道の腹の外へ
進み出した秒針 拭き取れぬほどの赤錆
軋んだ機体で身を削り 最終列車は走る
やがて淡く漏れる月光 今更引き返す術なし
次の隧道が待つだろう それでも折れぬ強がりを
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