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asakist 投稿 - 2014/08/27 更新 - 2014/08/27 0 Comments 499 Views
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いいか、
わが想いと等しく、
最上の幸福の地を、
追い求めるものよ。
ここへ来てはいけない。








見下ろせば 先に故なく
喚いている
誰とも番いなく

見上げれば 後に故なく
喚いている
首垂れる旅を


 喚いている
 訳は知らない

 喚いている
 訳は知っている

 しかし 知らないふりをした方が
 利口なときも あるのだ


気色を変えず彷徨う
生き恥!
晒して雲海汚し設う
懈怠は何処にもあらねど
死に結!
はたてに鋒鋩


機法の玉音 静かに
鳴り交う
海とも 空や地與とも
与り知らぬ この身の在処
しゅるりころり
蒼天座し 今際の声 響く


 不快だ 忘れることなど出来ない
 万物は生きてこそ
 理を外れ
 お前はそこで なんとなる

 仏にでも なれると思ったか


見下ろせば 終ぞ影なく
見上げたとて
つくづく 路もなく

光も 闇も
そこになく!
何処にも
終わりなく!

怒りも涙も笑みさえも
何処かに捨て 孤独に蹲る
心つんのめり!

天つ原に この煩悩
不肖がひとり
轡の息に
翹望の謗りを吹いて
明滅を抜ける!
天つ原を ただ望みて
生き挙ぐものよ
その身の乾くを 満つものなど
ここには有らず…


先後にも つぶねの云いを
知るものは 無し








本編



そこは 高天の 原で あった
万物の理を失い
幾億の星が
幾兆の汗を垂らしたとて
辿り着けぬ
原で あった






はは、はははははーーーぁ!
ここだ!こここそが!
私が追い求め、万物が追い求め、
全ての生体が追い求め、
着くことの叶わぬ理想の地なのだ!
最上の幸福の地!

見下ろせば、
雲海の大地であり!
見上げれば、
蒼天の大空であり!
他に何もなく!
であれば、
であるからこそ、
ここは理想の地であることに相違ない!

原と言うものだから、
草木の僅かに、
芽吹いているのやと思っていたが、
そんなものはない!
そんなものは必要でない!
語り継がれる空想と、
差違が生まれるのは仕様のないこと!
この地へは、
誰も、
未だかつて誰も、
辿り着いたことなどない!
まして、
この地から、
現世へと、
戻ったものなど、
いないのだ!

なんという高揚!
なんという感激!
私は辿り着いた!
私こそが、
辿り着いた!
ここには一切の死が生まれず、
ここには一切の生が死なない!
食欲も、性欲も、睡眠欲も、
ありとあらゆる、
私を束縛していた、
ありとあらゆるものが、
最早私を留めることはないのだ!
嗚呼、なんという、
なんという幸福!
只今全てが幸福である!

この、最上の幸福の地へ、
私が何故着くことが出来たのか!
おおよそ、
私の大層な信仰が、
この身全てを賭して、
この地を懇願した、
私の、全身全霊の信仰が、
天におわす、
御心優しき仏様に届いたのだろう!
私をお救いくださったのだろう!
或いは何か、
他の理由があったのやも知れぬ!
気まぐれであったのやも知れぬ!
仏様の御心は計り得ないものだ!

しかし!
しかし、今や問題ではない!
問題ではないのだ!
つまり、
私は今、
ここにいる!
この、最上の幸福の地に、
私の足は着いている!
私の意識は、到達している!
それだけで良い!
それだけの理解こそが、
今の私には、
何よりも十全な答えだ!
つまり、
私は今、
ここにいる!

今をもってしても、
この興奮は冷めやらぬ!
至極当然だ!
(理なき地における当然とは何か、とは問うまい!)

辿り着いた!
辿り着いた!!
辿り着いた!!!

わが身賭して求めていた地だ!
この興奮、
冷めるほうがおかしいではないか!

辿り着いたのだ!
生も死も、
因果もない地!

万物が、
羨み望み嫉み妬み憎み恨み
憧れた天上に私は辿り着いた!

さぁ!私の求めた地だ!
ここでなら私は、
私の思うままに、
何に縛られることなく、
そのものずばり、
自由のままに動くことが出来る!
ここでなら私は、
私のしたいように!……





……私のしたいように!……
…………
…………
…………




私のしたいように。

…私のしたいように?

はて、私は何がしたいのだ?
いや、そもそも、
この地には何があり、
この地で何が出来るのだ?

私は、
現世の束縛に嫌気がさし、
解放されたい、
その一心で、
この身の全てを賭してまで、
この地を希った。
そして、この地へ辿り着いた。

私の望みは、
この地へ辿り着くこと、
それのみであった。

それが叶ったのだ、
この興奮は、
何者にも代え難い。

おそらく、
万物の中で、
最も幸福な成功であるはずだ。

しかし、
それが叶った今、
私には、
何が、
残っている?

私は、
この地で、
何が、
したいのだろう。

この、最上の幸福の地では、
食欲も性欲も睡眠欲も、
必要としない。

いくら歩こうとも疲れはしないし、
瞼を閉じても眠れない。

ここには生も死もないのだから、
呼吸など形だけであるし、
子孫を作ろうにも、
相手もいない。
そもそも、
子など産める世界であるかも妖しい。
高天の原といえど、
見渡す限り、
ここには、
一切の草木がなく、
単なる雲居の荒野であった。

全方位、
遠くを見渡すが、
雲海平線上には何もなく、
見上げてみても、
薄ら寒い青色の空が、
雲も、月も、星も、
太陽もなく、
ただ、
青色の空が、
漠然と広がっているに過ぎない。
青い空の天と、
白い雲の地しか、
私の視界には、
見て取ることが出来ない。
その他に、
何もない。

途端に、
私は、
怖くなった。不安になった。
孤独になった。絶望になった。

あれほどの興奮が、
先ほどまで、
私の心で滾っていた幸福の興奮が、
今や、
私の心の内には、
見て取ることが出来ない。

私は、
何が、
したいのか。
いや、違う。
そうではなく、
何が、
出来るのか。

以前の私なら、
食欲を満たし、
性欲を満たし、
睡眠欲を満たし、
残りの時間を、
この地を希う為に使えた。
それしかなかった。

しかし、
今や、
私は、
食欲もなく、
性欲もなく、
睡眠欲もなく、
この地へ辿り着いたが為に、
この地を希うことも、
最早出来ない。
出来はしない。

以前なら、
現世の生死の在り方に際し、
時間は有限であった。
しかし、
今や、
この地の生死の在り方に際し、
時間は無限である。
いや、
そもそも、
時間などと言う概念など、
ここには存在していないのだろう。
空はただ青色をしているだけ。
私自身、
何も消耗をしない。
疲れ知らず、飢え知らず。
その上、
呼吸要らず。

気付けば、
ここでは死ぬことも出来ない。
当然だ。
(何をもっての当然か)

疲労で死ねず、飢えで死ねず、
窒息で死ねず、
まして、
高いところも、車も、
鋭利物も、鈍器も、
毒も、何もかも、
ここにはない。
最上の幸福の地にはないのだ。

私は、
ここにいる。
生きて、いる。

生きながら、
死んでいる。
そういうことなのだ。
そういうところなのだ、
最上の、
幸福の、
地、
というのは。
死もなく、生もなく、
そんな地に、
私は辿り着いた。
辿り着いてしまった。
因果のない地へ、
因果者が、
辿り着いてしまったのだ。

なんと、
愚かなことであろうか。




いいか、
わが想いと等しく、
最上の幸福の地を、
追い求めるものよ。
ここへ来てはいけない。
ここは、
あくまでも、
理想なのだ。
理想郷でしかないのだ。
辿り着くべき地ではなく、
万物の、
理想のままで終えねばならぬ。

私は、
私には、
仏様の罰が下ったのだ。
ふと、
思う。

決して、
辿り着いてはならぬ、
理想の地。
私は、
理想に留めることが、
出来なかった。
報いなのだ。
これは、
仏罰なのだ。

いいか、
わが想いと等しく、
最上の幸福の地を、
追い求めるものよ。
ここへ来てはいけない。
ここは、
幸福などではない。
ここは、
人の、
生命の、

地獄だ





そこは 高天の 原 であった
万物の理を失い
幾億の星が
幾兆の汗を垂らしたとて
辿り着けぬ

辿り着いてはならぬ
無情の
無常の
原 であった









「したたりぼっち・慙愧考_紫天」と
対を為し
「したたりぼっち・あゆあゆ考_今日を生きる」へ
続く

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